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2019年中国湖北省武漢より発生した新型肺炎(Covid-19)は世界的パンデミックを引き起こし、感染症の恐ろしさを私たちに痛感させました。今現在も終息の兆しが みえず、健康被害に遭われた方々には心よりお悔やみ申し上げます。これからも徹底した感染予防に努めたいと思います。
当院では歯科という分野で医療に従事する立場として、何が貢献、発信できるのかを考えました。本稿では、『感染症と口腔衛生』について記載致します。
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に限らず、感染症とは以下の3つの条件が揃った場合に生じます。
これらの条件を一つでも回避することができれば、感染は成り立たないと言えます。
今回のSARS-CoV-2は、『その保菌者の唾液を含んだ飛沫感染』『唾液や糞便、鼻汁などが触れた箇所を健常者が触れた手で顔の粘膜を触った際の接触感染』が主な感染経路と考えられていましたが、『唾液を含んだ飛沫の水分が蒸発し、核となるウイルス本体が非常に軽いために浮遊し感染する空気感染(一般的にはエアロゾルと表現されているが)』の可能性もあることがわかってきました。
そのために、密室での人と人との接触を避け、マスクやメガネをすることにより顔を手で触らないようにし、指先の爪の中まで徹底した手洗いを頻繁に行うことなどが推奨されており、当院もそれらが最も重要と考えております。
しかしながら、これらを長期に守り続けることは実際には非常に困難と考えられます。家族や友人、仕事関係など社会生活を行う上で避けられない場面も多いと思います。
それでは、長期的なウイルスとの戦いと考えると、私たちが今から準備しておくべきことはなんでしょうか?
項目3を回避することではないでしょうか?
つまり宿主とならないように免疫力を高めることです。
バランスのとれた食事、良質な睡眠、適度な運動やストレッチを行うことは、血流や免疫力を高め、感染予防に限らず様々な健康効果が期待できます。
当院では、日本大学松戸歯学部衛生学教室の有川量崇教授のご指導のもと、兼ねてより高濃度ビタミンCに代表されるような栄養素と口腔内健康の関係について情報提供を行ってまいりました。(高濃度ビタミンCを摂取すれば全て治るということではありません。あくまで健康サポートと考えバランスのとれた食事を重視してください。)
Nishida M, Grossi SG, Dunford RG, et al.: Dietary vitamin C and the risk for periodontal disease. J Periodontol, 71: 1215-1223, 2000.
Chapple IL, Milward MR, Dietrich T.: The prevalence of in?ammatory periodontitis is negatively associated with serum antioxidant concentrations. J Nutr, 137: 657-664, 2007.
Amarasena N, Ogawa H, Yoshihara A, et al.: Serum vitamin C-periodontal relationship in community-dwelling elderly Japanese. J Clin Periodontol, 32: 93-97, 2005.
参考URL
また、健康に対する効果もかつてより報告されており、様々な有効性も示唆されます。
参考URL1
参考URL2
良質な睡眠、バランスのとれた食事、適度な運動やストレッチは健康にとってとても大事なのです。
このお話をする前に、読んでいただいている方々にお聞きしたいことがあります。
皆様は、歯科医院で定期的に歯の歯石、ステインやプラークを除去したりしてますか?
正しい歯ブラシによるブラッシングを行っている自信はありますか?
もし、これらを数ヶ月以上放置している方がいらっしゃいましたら、必ず口腔内にはあらゆる細菌が繁殖し、非常に不衛生になっているとお考えください。
『必ず』です。
口腔内にはもともと未同定の細菌を含め約700種類の細菌が大量に生息しております。これらはプラークとして集合体をなすと、バイオフィルムという細菌同士のバリアーを形成します。
お風呂の滑り(ぬめり)と同じです。
お風呂の滑りは、次亜塩素酸ナトリウム系の『カビ取り剤』を使用するか、タワシで擦ることで取り除けます。
口の中に『カビ取り剤』を使用できますか??
無理です。お口の中の大事な細胞まで死んでしまいます。
つまり、口腔内のバイオフィルムは、基本的に擦りとって除去するしかないのです。
もし、歯と歯の間や、歯と歯茎の隙間に自分では見えない磨き残しがいつも残り、それがやがて蓄積し、唾液中のミネラルとともに歯石となって歯の表面に付着すると、ブラッシングでも除去できなくなります。やがて歯石は歯を支えている歯槽骨の吸収を促し、歯周病となります。
現在この細菌は血中にも入り込み、高血圧、心筋梗塞、脳梗塞、早産、糖尿病のリスクファクターとなることも分かっております。
歯石が沈着
歯石除去後
歯と歯の間や歯と歯茎の間は、正しいブラッシング指導を受けていなければ、必ずといっていいほど磨けていない。一度歯石になると専用の器具でなければ除去できない。
今話題のWHOでは、正しくはお口の中を染め出しして90パーセント以上の磨き残しがないことを推奨しております。
また、我々歯科医療従事者でさえ100パーセントは不可能ですので、歯と歯の間の隙間の深さ(歯周ポケット)を計測し、定期的な歯の正しいクリーニングのもと歯石を除去しましょう。
咀嚼機能が低い状態(100mg/dl以下)が長期間続くと、糖質偏重食が常態化してしまい、タンパク質が摂取できずに低栄養が進行し、血中アルブミン値が低下(3.5g/dl以下)し、著しい免疫力低下を招くことになります。
また糖尿病悪化のリスクを高めることにもつながります。
Takeuchi H et al. In?uences of Masticatory Function Recovery Combined with Health Guidance on Body Composition and Metabolic Parameters. Open Dent J 13: 124-136, 2019. Wakai K et al. Tooth loss and intakes of nutrients and foods: a nationwide survey of Japanese dentists. Community Dent Oral Epidemiol. 38(1): 43- 9, 2010.
もし、将来的に歯科医療提供の機能が停止するようなこととなれば、公衆衛生学的スケールで低栄養を招きかねず、COVID-19感染症の疾病重症化につながる恐れがあり、死亡率が上昇するリスクが高まると考えられます。
急性感染症と栄養の関係は決して疎遠ではなく、たとえ新型コロナウイルスに感染したとしても重症化しない身体維持が医療崩壊を防ぎ、国民の公衆衛生向上につながるものと考えます。一般にウイルスの感染成立はウイルスの入る量と、体の免疫力のバランスによって感染が成立し発症するか、自然治癒するかが決まります。体に入るウイルスの量を減らすためにも、日頃からの手洗い・うがい、体力(免疫力)の増強が必要です。
以上は、元国立感染症研究所客員研究員鶴見大学歯学部臨床教授医学博士武内博朗より引用改変した内容です。
このことは、今回の感染症に限らず多くの健康面において、実際に臨床に携わると切実に実感することです。
よく噛めることと、健康寿命(寝たきりにならず健康で長生きすること)は明らかに比例しております。
感染症(疫病)との戦いは、人類の医療を進化させてきました。顕微鏡や抗生物質の発見などもその一つです。
前述しましたが、感染症予防のためには免疫力が非常に大事です。
免疫には大きく2つありますが、ワクチンなどの獲得免疫と唾液などの自然免疫があります。
唾液中には様々な抗体が存在し、強力な抗ウイルス作用を発揮します。
資料提供 日本大学松戸歯学部 衛生学教室 有川量崇教授 ご執筆文より引用改変
また、インフルエンザや風邪症候群のほとんどはウイルスが咽頭に付着し約20分ほどで細胞内に侵入を開始すると言われてます。
その侵入を助けてしまうのが、もともと口腔内に常在する細菌群が放出するノイラミニダーゼやプロテアーゼなどの酵素です。
口腔内の衛生状態が悪化することにより、口腔細菌数が増加(1x108cfu/ml以上)するとウイルスの感染力が増し、ウイルス性肺炎や人工呼吸器関連肺炎(VAP)を増悪させることが報告されています。
今回のSARS-Cov-2の感染レセプター(ACE-2)は、口腔内に存在し、特に舌の上皮細胞に多数発現していることが明らかになりました。舌には舌乳頭が多数存在し、実際に味を感知する器官である味蕾は、この舌乳頭に集まっています。
味蕾の味感知機能を障害し、味覚障害が起こすことが症状として現れると考えられます。
(資料提供 日本大学松戸歯学部 衛生学教室 有川量崇教授)
また口腔内の不衛生は、もし緊急時人工呼吸器が装着される事態になった場合、人工呼吸器関連肺炎(VAP)を引き起こすリスクが高まります。
コロナウイルス感染のレセプター(ACE2)は舌の粘膜に豊富にあり、経口感染には特に注意が必要です。
歯科診療所での日頃の口腔ケアは、口腔細菌由来の肺炎を防止して新型コロナウイルス感染時の重症化予防につながると考えられるのです。
(元国立感染症研究所客員研究員 鶴見大学歯学部
教授 花田信弘
臨床教授 医学博士 武内博朗 より引用改変)
常日頃からの口腔ケアは、いざという時の体の生命力を高めます。また様々な健康管理にもつながります。たくさんの方々が、ただ削るだけの歯科治療ではなく、予防のための歯科治療にスイッチされることを切に願っております。
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